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優駿

 こんにちは、弁護士の橋本です。

 今回は競馬の話をしたいと思います。

 私は、学生時代に競馬に興味をもち、大きなレースがあるときにはテレビで見ていました。しばらく見ていなかったのですが、昨年ころから、大きなレースがあるときにはテレビで見るようになりました。学生時代に陸上競技の中長距離をやっていたからか、なんでも競走を見るのが好きです。第4コーナーを過ぎて最後の直線に入り、人馬一体となって死力を尽くしてゴールめがけて何頭もなだれ込んでくる場面は、テレビで見ていても熱くなります。馬券を買うわけではないのですが、人が走るのと違ってジョッキーを乗せた馬が走るので、結果の予想が難しいところも競馬の魅力です。

 競馬は世界中で行われており、その歴史は古く、300年前のイギリスにさかのぼります。驚くことに、サラブレットの牡馬(ぼば)の先祖はたった3頭(ダーレー・アラビアン、バイアリー・ターク、ゴドルフィン・アラビアン)で、この3頭の子孫のうち、長い年月をかけて強い馬の血だけが残され、今のサラブレッドに引き継がれているそうです。この話を宮本輝さんの小説「優駿」で知りました。私が学生時代に競馬に興味を持つようになったきっかけは、友人がこの本を勧めてくれたからで、以来、宮本輝さんの作品が好きになり、これまで数多く読んできました。

 「優駿」は、1頭の競走馬が、競馬関係者の夢「東京優駿(日本ダービー)」を目指す物語です。最初に登場するのは北海道静内町の小さな牧場、トカイファームを経営する渡海千造、博正親子です。仔馬の誕生前、博正は、牧場の横を流れるシベチャリ川の河原に膝をつき一心に祈ります。

 「生まれる仔馬が牡馬でありますように。風の精の申し子のように速く、嵐みたいに烈しく、名馬となる天命をたずさえた仔馬でありますように。」

 ゴドルフィンの血を引く生まれたばかりの仔馬は、関西の実業家和具平八郎が買いとり、オラシオン(スペイン語で「祈り」)と名付けられます。渡海親子、平八郎、娘の久美子、弟の誠、秘書の多田、牧場や厩舎の関係者、ジョッキー、新聞記者など、数多くの人物が登場し、それぞれの夢、欲、打算、嫉妬、愛憎などが交錯しながら物語が展開していきます。オラシオンはダービーへ続く道を走り続け、人々がそれぞれに自分の人生、夢や希望を重ね合わせ、思いを託します。

 久しぶりに読み返しましたが、学生時代に読んだときとはまた違った感動がありました。ただひたすらに速く走ることのみを目的として生まれてくるサラブレッドの純粋さ、そしてそれとはあまりに対照的な人間社会の営み、生と死、栄光と挫折、喜び、寂しさ、哀しみ。悩み苦しむ人生の中で生きる意味を何かに託せずにはいられない人々の思いが1頭の競走馬に込められています。

 5月30日は第88回日本ダービー、昨年はコントレイルがデビュー以来無敗のままダービーを制しました。今年はここまで無敗の皐月賞馬エフフォーリアが圧倒的一番人気に推されています。鞍上は弱冠22歳の横山武史騎手、父横山典弘騎手との親子対決でもあります。今年はどのようなドラマが待っているのか、3年前に産まれたサラブレッドの頂点を決めるレースが近づいてきました。とても楽しみです。