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成年後見制度について考える

 こんにちは、弁護士の橋本です。

 2000年にスタートした成年後見制度について、改正に向けた見直しが検討されています。①一旦利用を始めると原則として途中でやめることができないため必要なときだけ制度を利用できるようにする、②後見人を柔軟に交代できるようにする、③後見人に支払う報酬をわかりやすく適正なものとする、といった点が主な検討項目です。

 成年後見制度は、精神上の障害により、日常生活を営む上で必要な判断能力が不十分で法律行為に関する意思決定が困難な人に対して、生活全般にかかる必要な意思決定を支援する制度です。私も専門職として成年後見人を務めているほか、成年後見人に就くことを希望する親族の申立を代理することもよくあります。そこで、今回は、私の経験から感じているところをいくつか述べたいと思います。

ア 一旦始めると原則として成年後見をやめることができない

 成年後見制度の利用を始めると原則として途中でやめることができないというのはそのとおりです。

 ご家族などから話を聞くと、成年後見人選任の申立を行う目的は、本人の生活費に充てるため預金を解約したい、本人が親の遺産を相続したので他の相続人との間で遺産分割をしなければならない、介護施設に入居するために契約をしなければならないが施設から成年後見人選任を求められている、空き家となっている自宅などの不動産を処分したい、法的紛争を抱えており第三者との間で交渉や訴訟を行いたい、といったケースがあります。こうしたケースでは、本人に代わって法律上の意思表示をするために成年後見人を付けて対応せざるをえません。成年後見人の本来の役割は本人の財産全般を管理することですが、当面の問題が解決した後も一生涯、成年後見人が本人の財産管理をしていく必要性を感じないケースが多々あります。目的を定めて成年後見人を選任し、目的を達成したら終了させるという運用も認められるべきでしょう。

イ 誰が成年後見人になるかが分からず変更もほとんど認められない

 成年後見人に専門職等(多い順に司法書士、弁護士、社会福祉士、その他)が就くケースと親族が就くケースがあります。制度発足当初は、親族が後見人になるケースが大半だったのですが、令和3年度に選任された成年後見人の8割は親族以外(専門職等)でした。私は、これまで身の回りの世話をしてきた親族の方の代理人として、その方を申立人兼候補者として成年後見人選任申立をしたにも関わらず、家庭裁判所が専門職を付けようとしたケースが何度かありました。私から家庭裁判所に申し入れをして、ようやく親族後見人が認められたケース、申し入れにもかかわらず専門職が付けられたケースいずれもあります。私は、それぞれのケース毎に、最もふさわしい人を後見人に付けるべきだと思います。例えば、親族が本人のケアをしてきてこれからもその役割を担える、本人もある程度の意思疎通ができて本人の心情への配慮が強く求められるようなケースでは弁護士が後見人にふさわしいとは言えないでしょう。弁護士が後見人に就くべき場合とは、例えば法的な手続が必要なケース(遺産分割や不動産の処分、交渉が必要な債権の回収など)があります。もっとも、この場合にも、親族が後見人に就いて後見人から弁護士が事件として依頼を受けるという方法もあります。弁護士が後見人に就いて事件が終了したら親族に交代することも柔軟に認められるべきでしょう。

ウ 専門職後見人に対する報酬

 専門職後見人に対する報酬は、通常、家庭裁判所の決定に従い、年に1回支払われます。特に本人のために労力を要した場合や資産を増やした場合(例えば訴訟手続を通じて本人の資産を増やした場合など)に加算されることがありますが、それ以外は、本人の資産に応じて決められており、月に換算すると2~3万円程度が多いようです。本人の財産が数百万円程度で収入も少なく、毎年数十万円ずつ資産が目減りするようなら、特に理由が無い限り、専門職を長期間付けるべきではないと思います。

 弁護士が後見人に就いて、収入を管理し費用を支払い本人の生活上必要な契約や手続をする、そのための調整や交渉をする、親族に対して説明して、ときに法的な観点からもアドヴァイスをする、毎年資産と収支の状況を家庭裁判所に報告する、そのための資料を日々整理しておく、ということをしているとしましょう。親族が自分でやりたい、自分で出来る、と思うかどうかは人それぞれです。希望して後見人になったものの、後見人として行わなければならない業務(特に家庭裁判所への報告)が思ったより大変だったと感じている方もいます。本人に資産や収入が十分あるのであれば専門職に任せたいというケースもあるでしょう。 専門職の報酬としてどれくらいが適当かについて一概にはいえませんが、後見人に期待される役割と実際に担うべき業務、本人の資産・収入、生活状況、近親者の有無や意欲・能力を踏まえ、誰を後見人とするのかという問題と一緒に考えていく必要があるように思います。