こんにちは、弁護士の橋本です。
今回は、ワインの話をしたいと思います。
私は、社会人になってしばらくはビールばかり飲んでいました。いつの頃からか、きっかけが何だったかよく覚えていないのですが、ワインを飲むようになって20年くらいが経ちます。週末(ときどき平日も)、家でゆっくりワインを飲むのが今の私にとっての楽しみです。
私は、何であれ、歴史や地理、文化的な背景、物語なども知っていた方が楽しめると思う方ですが、ワインは長い歴史と文化に育まれてきたもので、今では「教養」としても扱われているので、それを知りたいという気持ちが前々からあり、これまで何冊か、なるべく分かりやすく「基本」が学べる本を読んできました。ただ漫然と飲むよりも、多少の「知識」があった方が、その日に飲むワインを選ぶのも、飲んでいるときも楽しいと思える気がするからです。
例えば、ワインの主要な品種と産地の特徴は知っていた方が好きなワインを選びやすくなって楽しめるでしょう。私はこの20年でときどき好きな品種が変わり、選択肢が広がりました。産地については、味や香りが好きなのはもちろんですが「歴史」「物語」が感じられる、フランス、イタリア、スペインのワインを中心に飲んでいます。特にイタリアワインが好きで、近所のスーパーなどで買ってよく飲んでいます。さて、ここまではどうということのない話ですが、日々ワインを楽しむ中で、常々心に引っかかっていたことがいくつかあります。
その1 深い話があるワインを飲む機会がない
「神の雫」(全巻楽しく読みました)に出てくる高級ワインの物語(土壌や気候、生産者の話など)をいくら思い浮かべても(妄想ですが)、まず飲む機会がありません。仮に機会に恵まれたとしても、その「世界観」を感じるほどの味覚があるとは思えません。さらに大きな問題があります。長期間の熟成に耐えうるワインが長い年月を経て偉大なワインに変わるといいますが、以前飲ませてもらった何十年も前の高級ワインがあまり美味しいと思えず、自分の未熟さを思い知らされた気になりました(高級ワインに魅せられて散財するよりいいですが)。
その2 教養の強要?
ワインは教養である、と言われると、ワインに関する「地理」「歴史」「文化」などを広く学ぼうという気になります。確かに、ワインにまつわる色んなことを知っていたほうがより楽しめると思うのですが、主要な品種や産地の味の違いが何となく分かる程度の私にとって、そうした「知識」が今、目の前にあるワインとどう関わるのか、具体的にはワインの味や香りにどう反映しているのかがよく分かりません。誰かに強要されているわけではないのですが、ただ漫然と飲んでいるだけでは十分に楽しめていないのでは、勿体ないのでは、という気にもなります。
その3 飲んだワインを記憶できない
ワインに詳しい人、ワインが分かる人の話を聞くと、飲んだワインの記憶が鮮明にあるのだと思います。前に飲んだワインの記憶があるから、別のワインと比較することができて、その味や香りの特徴がどこから来るのか、どのように美味しいのか、さらにはそのワインにまつわる蘊蓄を語れるのでしょう。私の場合、飲んでそのときは美味しいと思い、次に買うとき前に飲んで美味しかったワインということくらいは覚えているのですが、どのような味だったかは思い出せません。飲んで、その場で美味しいと思い、すぐにその味を忘れてしまいます。そうすると、私の中でワインの世界が広がらないような気がしていたのです。
この長年の私の悩み(!)に答えてくれる本がありました。タイトルは「今日の美味しい一杯に出会える ワインを楽しむ本」(大和書房)、著者は以前「最後はなぜかうまくいくイタリア人」(日本経済新聞出版社)で紹介した宮嶋勲さんです。宮嶋さんは、ワインの仕事に40年近く携わり、1年の3分の1をイタリアで過ごし、膨大な数のワインを試飲して執筆し、数多くの著名な生産者とも親交の深い、まさにワインのエキスパートです。
宮嶋さんは、蘊蓄、格付け、マナーといった「教養」から入ってもワインを楽しめないと力説し、普通の人がワインをより楽しむための数々の「肝」について解説しています。一つのことを極めた人の揺るぎない自信とその過程で培われた深い人生観がにじみ出ています。
宮嶋さんの印象的な言葉を紹介します。
「その日の気分で飲みたいものを飲むのが一番であり、料理と合わなくてもまったく気にする必要はない」(99頁)「何を飲むかではなく、寛げて、一日の疲れがとれ、明日に立ち向かう意欲が湧いてくるということが大事なのだ」(113頁)「ワインを楽しむのにワインを『わかる』必要はない。幸せになるのに人生を『わかる』必要がないのと同じである」「『わかろう』とするよりも自分が気に入りそうなワインをとりあえず飲んでみることだ。人生と同じで失敗もあるだろう。それこそが次に失敗しない『勘』を養ってくれる」(123頁)「ワインに関しては大いに好き嫌いを言ってほしいと思う。所詮ワインは嗜好品であり、自分が気に入ったものが一番なのだ」「好みは時とともに大きく変化するものだ」(129頁)「そのときに心に訴えかけてこないものを無理に好きになろうとしても生産的でないのである」(130頁)「向こうから語りかけてくるのを待てばいいのだ」(131頁)「ワインを普通に楽しむだけであれば、あまり高いワインは意味がないだろう」(160頁)「幸せな時間を与えてくれるのが最高のワインである」(254頁)
まさに今の私にぴったりの名言の数々です。宮嶋さんの助言を参考にして、今日もまた楽しく美味しくワインを飲みたいと思います。