青空カフェcafe

夜想曲

 こんにちは、弁護士の橋本です。

 先日、 アリス=紗良・オットさん のピアノリサイタルに行ってきました。私が紗良・オットさんを知ったきっかけは、リストの超絶技巧練習曲集を聴きたいと思い、CDショップで手にしたのが彼女のデビューアルバムでした。今でもよく車の中で聴いています。その後、NHK交響楽団とリストのピアノ協奏曲第1番で共演したときの放送をテレビで見て、テクニックに加え、独創的でエネルギッシュな演奏、言葉の端々から伝わってくる優しい人柄に魅せられ、ファンになりました。今回、市役所に置いてあったチラシを見て青森公演があると知り、急いでチケットをとって当日を心待ちにしていました。

 今回の日本公演は、今年発売のCDのレコーディングツアーとのことで、曲目は、ジョン・フィールドのノクターン(夜想曲)を中心とした構成でした。私は、これまでジョン・フィールドという作曲家について、名前すら知りませんでした。(映画音楽のジョン・ウイリアムと混同していたくらいで現代音楽をやるのかと思ったほどです。)ジョン・フィールドはアイルランド出身、ベートーベンと同じ時期に活躍し、当時、「ジョン・フィールドを知らないのは罪だ」と言われたほどの絶大な知名度と人気を誇っていた作曲家・演奏家だったそうですが、なぜか今はあまり演奏されていません。ノクターン(夜想曲)といえば今ではショパンのイメージですが、このジャンルを確立し、ショパンを始め後のロマン派の作曲家に大きな影響を与えた人でもあります。演奏の合間に手を止めて作曲家紹介、曲紹介がありました。サービス精神旺盛でトークも楽しく勉強になりました。

 ピアノの前に座って弾き始めた最初の曲の最初の音から響きが違いました。ピアノは鍵盤を叩けば音が鳴る楽器ですが、こんなにも美しい音、優しく包み込むような音、琴線に触れる音を鳴らせるのかと一瞬のうちに引き込まれる感じでした。アリス=紗良・オットさんといえば超絶技巧のイメージが強かったのですが、今回の演奏は、全体的に穏やかな曲調で、これまでのイメージを一新するものでした。ノクターンもショパンの暗く美しい曲というイメージでしたが、明るい曲もあってとても聴きやすい構成でした。テクニックがあるからこそ穏やかな曲も美しく弾きこなせると思いました。

 ノクターンの後、最後に弾いたのがベートーベンのピアノソナタ「月光」でした。第1楽章はそれまでの穏やかな演奏の延長という感じでしたが、第3楽章に入ると一転し、髪を振り乱しながら烈しくピアノを鳴らす様は、紗良・オットさんのこれまでのイメージのまま、期待通りでした。テレビでも見せていましたが、集中力が極限まで高まるにつれ、紗良・オットさんが見せる何かに憑かれたかのような表情に凄みを感じます。以前、ピアノは打楽器であると聞いたことがありますが、あれだけ速く正確に、しかも情熱的に叩けるものかと最後まで釘付けになりました。

 アンコールはサティ、「月光」の後で、「もうエネルギーが残っていません」と言って笑いを誘っていましたが、そうだろうなと納得の演奏でした。N響との共演のときもアンコールはサティでした。リストのピアノ協奏曲1番の後で「ピアノに大分負担を掛けましたので」と言っていたのを思い出しました。サティは、烈しい曲を全身全霊で弾いた後の定番なのかもしれません。心が洗われる音色でした。

 青森ではなかなか聞けない世界的なピアニストの超一流の演奏を聴けて、最後まで大満足でした。また機会があれば聴きに行きたいと思います。