青空カフェcafe

イタリア人の話

 こんにちは、弁護士の橋本です。

 私の事務所の執務室には法律とは関係ない本も置いてあり、仕事の合間に読んで気分転換しています。今回は、「青空文庫」の中から私が特に気に入っている本を紹介します。

 「最後はなぜかうまくいくイタリア人」

 (宮嶋勲著、日本経済新聞出版社発行)

 著者の宮嶋さんは1年の3分の1をイタリアで過ごし、イタリアの食とワインについて多数執筆があり、外国人ジャーナリスト賞やイタリア文化への貢献による勲章を受賞するなどイタリアでも高い評価を得ています。

 冒頭、宮嶋さんは若い頃の仕事での経験を踏まえこんなことを述べています。

 「イタリアでは予定通りに物事が運ぶと考えるのは大きな間違い、不測の事態が起こることのほうが普通である(「不測」の事態が「予想」できるという矛盾した状態)」

 「不測の事態が常態化しているイタリアで不測の事態に慌てるのは愚の骨頂、どっしりと構えて解決策を見出すことに全力を尽くすほうがよほど大切」

 「どんな不測の事態が起こってもイタリア人は諦めずにほとんどの場合最後は何とかする能力がある。子どものころから不測の事態に慣れきっている分、それに対応する能力が破格に高い」

 本では、イタリア人の仕事、人生、家族と恋愛、食事、地域による気質の違いについて、自らの体験をもとにユーモアたっぷりに紹介しています。

 イタリア人を表す言葉としてよく「食べる、愛する、歌う」と言われます。今を楽しむことを謳歌するばかりで気楽に暮らしているように思われがちなイタリア人ですが、イタリアは、ファッション、デザイン、車、農業、食品などの分野で世界をリードする、EUの中核を担う経済大国です。その秘密がこの本を読むと良く分かります。そして、ただイタリアは素晴らしいと礼賛するのではなく、随所にコラムで「見習ってはいけないイタリア」の事情が述べられていて、それがまた面白いのです。時間にルーズ、公私混同、けじめがない、無計画、分業や段取りが苦手、今を楽しむことを優先して嫌なことは先延ばしする、ダブルスタンダード、偽善、コネに頼る、など私たち日本人の感覚からすると正に「見習ってはいけない」のオンパレードなのですが、イタリア人の物の考え方や彼らなりの合理性、その根底にある気候、風土、文化、歴史についての説明を聞くと妙に納得させられます。

 日本とイタリアを行き来する宮嶋さんは、後書きで、清潔でサービスが行き届いた日本に対しイタリアは正反対である、それにも関わらず街を歩くイタリアの人たちはのんびりとしていて楽しそうでやたらと時間と精神的余裕がありそうだと述べています。その理由について、私たちがサービスを受ける消費者であると同時にサービスを提供する労働者でもあり、最高のサービスが受けられる社会は最高のサービスを提供するために厳しい労働をしなければならない、イタリア人は自分がつらい労働をしたくないから相手にもそれを求めないためと説明しています。イタリア人は他人に対して寛容で本質的に優しい人たちなのです。

 この本を読むと、自分が正しいと思う物の考え方や行動が必ずしも正解ではないこと、自分たちとは異なる文化を退けるのではなく知って理解しようと努めること、互いを尊重することの大切さに気付かされます。私はイタリアに限らずヨーロッパに行ったことはありませんし、イタリア人の知り合いは1人もいませんが、この本でイタリアという国やイタリア人が大好きになりました。