こんにちは、弁護士の橋本です。
私は大学ラグビーが好きで、1月9日に行われた大学選手権の決勝戦をテレビで見ました。試合は、帝京が前半にトライを重ねて優位に進め、明治が後半8分にトライをあげて反撃ムードが高まり、その後は一進一退の攻防が続きました。そんな中、後半23分に帝京がスクラムで圧力をかけて明治の反則を誘い、帝京の細木主将が腕を天に向かって突き上げる烈しいガッツポーズで雄叫びを上げました。大学4年間の思い、主将として過ごしてきた1年間の思い、そしてこの試合にかける思いを凝縮したようなシーンでした。この直後、帝京がトライをとって明治を突き放しましたが、最後まで両校の必死さが伝わってくる試合でした。試合後、帝京の岩出雅之監督は退任を発表しました。その引き際も素晴らしいと思いました。
帝京は、2009年から2017年まで大学選手権9連覇しています。帝京に続くのは同志社の3連覇です。帝京の連覇が途切れた後は、明治、早稲田、天理と毎年違う大学が優勝しています。毎年学生が入れ替わる大学スポーツにあって、しかも早稲田、明治などの強豪校がしのぎを削る大学ラグビーの歴史の中で、これほど勝ち続けたのは奇跡的です。
岩出監督は1996年から監督を務め、この間の失敗、苦労、試行錯誤やノウハウを、著書「常勝集団のプリンシプル 自ら学び成長する人材が育つ「岩出式」心のマネジメント」(日経BP社)の中で惜しみなく披露しています。学生スポーツの関係者だけでなく、企業経営者など組織のマネジメントに携わる人、さらには自らの成長を目指す人に向けた重要な示唆が数多く含まれていて、私も愛読しています。
岩出監督は中高の教員を経て大学教授となり、新しい理論や研究を取り入れながらスポーツ心理学の授業を通じて学生たちのメンタル育成に取り組みつつ、ラグビー部の活動の中で実践しています。本の中で、一人ひとりが自律的に考え行動し自ら成長すること、そのためには「楽しさ」を活動の中心に置くことの重要性を繰り返し説き、「卒業後社会人となり、周囲の人たちから愛され信頼されて幸せに人生を生きていける人、周囲に幸せを与える人になってほしい」と述べています。
岩出監督は自身のことについても語っています。幼いころ父母が離婚し母とは最近まで向き合えなかったこと、高校生のころ父の会社が倒産し苦労したこと、屈折した思いを抱えた高校時代にラグビーを始めて必死に取り組み、大学では主将を務め大学選手権で優勝したこと、卒業後教員になり、しばらくは教育委員会の外郭団体で公園の清掃など裏方の仕事をしていたこと、その後念願叶って高校のラグビー部の監督になり何度も全国大会に出場したこと、高校日本代表のコーチ、監督を経て帝京大学ラグビー部の監督になったこと、等々。高校ラグビーの指導者になる前の10年間について、「ずいぶん遠回りしたね」といわれることもあるそうですが、この間の経験や出会いが帝京の監督としてのチーム作りに役立ったと述べ、「無駄な経験などない。人生遠回りも悪くない。むしろそこにこそ成長の源がある」と結んでいます。人としての器の大きさ、人知れず味わった様々な苦労、思い通りにならない足踏みの時期の葛藤、そのときどきの人との出会いと経験を糧として多くの学生を育ててきたことが伝わってきます。
自分自身の学生時代を振り返ってみても、これほど真剣に何かを学んだとはとてもいえません。ラグビーは無理ですが学生時代に岩出教授に教わりたかったです。帝京大学の4年ぶり10度目の大学選手権優勝は、自律的に考え行動すること、そこに楽しさを感じ謙虚に学び続けることで人は成長できる、ということを改めて教えてくれたように思います。