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成年後見制度について考える(2)

 こんにちは、弁護士の橋本です。

 9月に成年後見制度のうち法定後見の改正の動きをとりあげました。今回は任意後見についてお話します。任意後見とは、本人の判断能力が十分あるうちに、将来自分で財産管理ができなくなったときに備え、予め自分の意志で希望する人を後見人に指定しておく制度です。前回法定後見の見直しの背景として3つ大きな問題があると述べました。

ア 一旦始めると原則として成年後見をやめることができない

イ 誰が成年後見人に選任されるかが分からず変更もほとんど認められない

ウ 専門職後見人に対する報酬の支払

 任意後見人の場合、これらの問題がどうなるのか考えてみます。

 任意後見人が就いて本人に代わって財産を管理するようになった場合であっても、「ア 一旦始めると原則として成年後見をやめることができない」ということは任意後見にも当てはまります。高齢による判断能力低下などの理由により、本人が自分で財産管理(そのために必要な法律行為なども含む)出来ない以上、本人に代わって別の人がやってあげる必要があるからです。

 もっとも、このことは「イ 誰が成年後見人に選任されるかが分からず変更もほとんど認められない」「ウ 専門職後見人に対する報酬の支払」という問題と密接に関わっています。現行の成年後見(法定後見)制度に対する不満の多くは、判断能力を失った本人よりも、本人の世話などで関わっている家族や近親者からよく聞かれるのですが、本人が自分で将来のことを考えることができる時期(判断能力を失う前)に、本人の意志で最も適切と思われる人をその人の同意も得て将来の後見人として選んでいますので、比較的人選や報酬についての不満は起きにくいといえるでしょう。

 任意後見制度の概要は次のとおりです。

1 任意後見契約を締結する

 本人が十分な判断能力を有するときに、将来任意後見人となる人の間で委任する事務の内容を定めて公正証書による契約を交わします。委任事務の内容は、自己の生活、療養看護、財産管理などです。公正証書は公証人が作成します。契約締結後、公証人の申請により任意後見契約の登記がなされます。

2 家庭裁判所が任意後見監督人を選任する

 医師の判断により本人の事理弁識能力(自己の生活や療養看護、財産管理などについての判断能力)が不充分な状況になった場合に家庭裁判所に対して任意後見監督人の選任の申立を行います。家庭裁判所は、任意後見人が本人から委任を受けた事務を適正に処理しているかを監督するために任意後見監督人を選任します。

3 任意後見事務を開始する

 家庭裁判所の任意後見監督人の選任により任意後見契約の効力が生じ、任意後見人は本人のために任意後見契約で委任された事務を開始します。任意後見人は、定期的に、任意後見監督人に対し、委任事務の遂行状況を報告する必要があります。

 任意後見制度は、任意後見契約を結ぶために必要な本人の判断能力が失われてしまった後では利用できません。このような場合には、第三者による本人の財産管理が必要であれば法定後見を利用するほかありません。そのためもあってか、任意後見の利用は法定後見に比べて低調です。そもそもこの制度があまり知られていないことも理由の一つでしょう。

 高齢化の進む日本において、判断能力の低下は人ごとではなく、誰にでも起こりうる問題です。そのため、最近、任意後見に関する相談や任意後見契約締結の支援業務が増えています。任意後見人の適格性や任意後見監督人による監督のあり方など考えるべき問題はいろいろありますが、私は、第三者による療養看護や財産管理が必要になった場合に備え、選択肢として、法定後見だけに頼るのではなく任意後見の利用ももっと検討されていいのではないかと思います。