こんにちは、弁護士の橋本です。
今月八戸市で行われた沖澤のどかさん(指揮)・牛田智大さん(ピアノ)・山形交響楽団の公演を聞きに行きました。
沖澤のどかさんは三沢市生まれ、青森市で育ち、2019年に多くの名指揮者を生み出してきたブサンソン国際指揮者コンクールで優勝し、今とても注目されている若手指揮者、牛田智大さんは1999年に福島県いわき市生まれ、12歳で日本人のクラシックピアニストとして最年少でCDデビューを果たし、2018年には浜松国際ピアノコンクールで第2位になるなど「人気・実力ともに若手を代表する注目のピアニスト!」、山形交響楽団は創立50周年、東北のみならず日本の音楽文化を代表するオーケストラです。(以上、パンフレットの紹介より)
今回は、沖澤さんにとって、コンクール優勝後初めての青森公演ということで、ご本人にとっても特別な思いが強かったようです。会場は満席で、郷土の誇りとなった沖澤さんを温かく迎える雰囲気に包まれていました。
公演の1曲目はメンデルスゾーン作曲の序曲「静かな海と楽しい航海」、幸福感あふれる明るい曲です。航海中の海というよりも航海に出掛ける前の高揚した楽しい気持ちが伝わってきました。故郷に錦を飾り、これからますます活躍が期待される沖澤さんの今回の公演のオープニングを飾るにふさわしい曲でした。
続いての曲がベートーベンのピアノ協奏曲第4番、牛田さんとの共演です。牛田さんは若くてスマート、ステージに登場した瞬間雰囲気が一変しました。この曲も明るく美しい旋律で、最初の曲との滑らかなつながりを感じました。オーケストラと調和した牛田さんの優しいピアノのタッチに会場全体が引き込まれ、速く難しいパートも難なく優雅に弾きこなしていました。演奏後のお辞儀の仕方も華やかに決まっていて、スターのオーラ満載でした。アンコールでピアノを独奏で弾くとき、沖澤さんもステージに出てきてオーケストラの後ろの段に座って聞いていました。あまり見ない光景でしたが、牛田さんの才能に対するリスペクトが伝わってきて微笑ましく印象的でした。今後のますますの活躍を期待させる演奏で、また聞きたいと思いました。
休憩を挟んで最後の演奏がベートーベンの交響曲第5番「運命」。出だしから最高に緊張する曲ですので、ステージに現れて指揮台に向かうところから、どのような演奏になるのか会場全体が固唾をのんで待ち構えていました。最初のフレーズを聴いてまず驚いたのがそのテンポの速さです。誰もが聞いたことがある曲ですし、私もコンサートの前にCDで聞いて予習していましたが、全く違っていて度肝を抜かれました。「運命」は指揮者によってテンポが違うというのは知っていましたが、これまで聞いたどの演奏よりも速い出だしでした。そのまま一気呵成に第1楽章が終わり、第2楽章でスローになると思いきやこれも速い。テンポが速いと聴かせどころが難しくなるような気がするのですが、沖澤さんの指揮は決してそんなことはなく、若さと力強さに溢れていました。テンポの速さは第3楽章、第4楽章も変わりません。私は第3楽章の終わりから第4楽章に続く盛り上がりのところが好きです。今回の演奏は、だんだんとクライマックスに向けて盛り上がっていくというより、最初の緊張感がさらにどんどんと高まっていく感じで、こういう「運命」もあるのかと思いました。クラシック音楽は過去に作曲されたものを再現するもので、名曲となればこれまで幾多の名演がなされてきました。そんな中で奏者は、自分自身のその曲に対する解釈を、これまで培ってきた技術や感性によって示すことが求められます。コンクール優勝後、沖澤さんがNHKのインタビューに答えて「自由だが孤独に」という言葉を(多分ドイツ語で)口にしていたのを思い出しました。自分はこの曲をこう解釈する、こう演奏する、という強い意志・信念を感じました。それとともに、まだ若い沖澤さんがこれからさらに経験を重ね、どのように演奏スタイルが変わっていくのか、何が変わらないのかを見るのもまた楽しみです。
私はこれまでピアノの演奏を生で聴く機会は何度かあったのですが、プロのオーケストラの演奏を生で聴いたのは中学校の課外授業以来(演奏自体は全く記憶にありません)でした。今回、特に印象に残ったのは、チェロの音色です。バイオリンや管楽器はテレビで聞いていてもよく響くのですが、チェロは生で聞くと全く印象が違います。チェロは人間の声に最も近い楽器と言われているそうですが、こんな音がするのかと感心しました。
沖澤さんは、4月から京都市交響楽団の常任指揮者に就任しました。しばらく日本を拠点に活動するようですので、ぜひまた聞きに行きたいと思います。