こんにちは、弁護士の橋本です。
私たち弁護士は裁判や弁護士会の活動などで出張があります。この3年間は大半がWEB会議などで代用されたためほとんど長距離移動が無かったのですが、今年に入って新幹線に乗る機会が何度かありました。東北新幹線の座席にはJR東日本のトランヴェールという月刊のフリーペーパーが備え付けられています。記事のクオリティが高く知的好奇心を刺激する内容ですので車内で楽しく読んでいます。
毎号、冒頭に作家のエッセーが掲載されていて、少し前から先月紹介した本(「盤上の向日葵」)の著者である柚月裕子さんが「旅のまにまに」というタイトルで連載しています。11月号は、ここ数年旅に出ることが難しくなり自宅の風呂にご当地温泉の入浴剤を入れて温泉気分を味わってみた、実際に温泉に行くのと何かが違うと思って考えていたら、自宅の風呂では狭くて音が響かないことに気付いたと述べ、様々な「余韻」の大切さを語っていました。見開き2頁ほどの短い文章ですが、一流の作家の着眼点や感性とそれを表現する力に感服していました。
先日裁判があって仙台に行った際に持ち帰った12月号が今私の手元にあります。「冬の星空」というタイトルで、「子供の頃から、星を見るのが好きだ。」という1文で始まります。柚月さんがどこでどのような星を見て何を感じていたのか、続きが気になります。子供のころ盛岡に住んでいたときの話をされているのですが、盛岡と同じく私の住む十和田も内陸にあり、冬は比較的晴れの日が多く空気が乾燥します。十和田は南部藩の流れを汲む街で、乾いた冷たい風が吹いて冷え込みが厳しく星空が美しいことなど盛岡と重なる点が多く、親近感を覚えます。
冬の夜、母と一緒に話をしながら家から少し離れた場所にゴミ出しにいくときに見上げた星空がこれまで見た中で一番きれいだと思ったと述べ、「あの冬の星空を思い出すたび、美しい景色は美しい思い出とともにある、そう思う。」と結んでいます。感傷的になるでもなく淡々と綴られているのですが、冬の厳しい寒さの中、星空の下での心温まる親子の情景が目に浮かんできます。
年の瀬の澄み切った夜空に輝くオリオン座を眺めながら、今の子供たちにも柚月さんの子供時代のように大人になっても思い起こされるような楽しい思い出を作って欲しい、来る年が大人たちにとっても子供時代の楽しかったことを振り返られるような平和で穏やかな1年であって欲しいと願っています。